本当のテーマは人間宣言ではなかった!「昭和天皇の人間宣言」を読み直す

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この記事では、昭和21年1月1日に発布された、いわゆる「天皇の人間宣言」について解説します。

以前当ブログで書いた『「耐え難きを耐え」しか知らない方のための玉音放送講座』が地味に伸びていて、昭和天皇スキーな私ブログ主としては、第2弾をやりたいとずっと思っておりました。

天皇の人間宣言は、そのタイトル通り「私は神じゃない」という内容であると取られることが多いんですけど、実は言いたいところはそこじゃない!というのが終戦の詔書と共通しています。

で、本来なら発布された1月1日にやるべかな…と思っていたのですが、機会を逸してしまい、この記事を書いている段階で春間近なんですけど、ちょっと書いてみようかなと思います。

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まずは、現代語訳から見ていこう

ここに新年を迎える。顧みると、明治天皇は明治の初め国是として五箇条の御誓文をお示しになられた。それによると、

一、広く議論をし、多くの事を世論に従い決めなければならない

 一、身分の高い者も低い者も心を一つにして、盛んに国の問題に対処しなければならない

 一、貴族も武士も庶民も、それぞれ志を遂げ、生きる事が幸せである事が必要である

 一、古くからの悪しき習慣を打ち破り、普遍の正しい道に基づいていかなければならない

 一、知識を世界に求め、大いに国の基盤となる力を高めなければならない

お考えは公明正大であり、何も付け加える事はない。わたしはここに誓いを新たにして国の運命を開いていきたい。

当然このご趣旨に則り、古くからの悪しき習慣を捨て、民意を自由に伸ばし、官民を挙げて平和主義に徹し、教養を豊かにして文化を築き、

そうして国民生活の向上を図り、新日本を建設しなければならない。

大小の都市の被った戦禍、罹災者の苦しみ、産業の停滞、食糧の不足、失業者増加の趨勢などは実に心を痛める事である。

とは言えど、我が国民が現在の試練に直面し、かつ徹頭徹尾平和のうちに発展しようという決意固く、

その結束をよく全うすれば、ただ我が国だけでなく全人類のために、輝かしき未来が展開されることを信じている。

そもそも家を愛する心と国を愛する心は、我が国では特に熱心だったようだ。今こそこの心をさらに広げ、人類愛の完成に向け、献身的な努力をすべき時である。

思うに長きにわたった戦争が敗北に終わった結果、我が国民はややもすれば思うようにいかず焦り、失意の淵に沈んでしまいそうな流れがある。

過激な風潮が段々と強まり、道義の感情はとても衰えて、そのせいで思想に混乱の兆しがあるのはとても心配な事である。

しかしながら私はあなたたち国民と共にいて、常に利害は同じくし喜びも悲しみも共に持ちたいと願う。

私とあなたたち国民との間の絆は、いつもお互いの信頼と敬愛によって結ばれ、単なる神話と伝説とによって生まれたものではない。

天皇を現御神とし、同時に日本国民は他より優れた民族で、ひいては世界の支配者たるべく運命づけられたとする架空の概念に基くものでもない。

私が任命した政府は国民の試練と苦難とを緩和するため、あらゆる施策と運営に万全の方法を考え実行しなければならない。

同時に私は我が国民が難問の前に立ち上がり、当面の苦しみを克服するために、また産業と学芸の振興のために前進することを願う。

我が国民がその市民生活において団結し、寄り合い助け合い、寛容に許し合う気風が盛んになれば、我が至高の伝統に恥じない真価を発揮することになるだろう。

そのようなことは実に我が国民が人類の福祉と向上とのために、絶大な貢献を為す元になることは疑いようがない。

一年の計は年頭にあり、私は私が信頼する国民が私とその心を一つにして、自ら奮いたち、自ら力づけ、そうしてこの大きな事業を完成させる事を心から願う。

引用元は、コチラからさせて頂きました。

一応、蛇足ながら解説します

天皇の人間宣言、というのは昭和21年1月1日に発布されたものです。

多くの人が「戦前の日本を否定し現人神の天皇が『人間である』と宣言した」という意味で本文を読まないで理解していることが多く、実際私も授業ではこの用語のみで済ませられた一人でした。

しかしながら、全体を読んでいくと…

明治天皇の五箇条の御誓文から始まり、日本はもともと皆で話し合い、古い悪習を排して進歩に向かっていこうという気風があったことを示しています。

そして、元々あったその気風に立ち返り、愛国心を世界を愛する心に広げて、新たな日本を築き上げ、世界平和に貢献するという意味だと、素直に読んでいけばすぐに分かる内容となっています。

結論として、この詔書を「人間宣言」というのは読解力の乏しい人のまとめ方ではないかとブログ主は思うのです。

じゃ、なぜこの詔書が作られたのか?

これはGHQの意向があったから、これに尽きます。

GHQは基本、日本が天皇を現人神だと信じる狂信的な国だと信じ、自分たちこそ民主主義の本家本元だと思っていたので、こういうことを言え、と言ってきたんです。

しかしながら、昭和天皇は始めっから「自分は人間だよ」と思ってたし、戦前さんざっぱら批判された「天皇機関説」に関しても

「美濃部(達吉)の意見はどこがおかしいのか?」と発言されていました。

そう思っている昭和天皇だから「自分は人間です」なんて、何を今さら…だったわけです。

しかし、一方で戦前を全否定して、

アメリカ(あるいはソ連などの共産主義国)をありがたがっていた状況も、当時見過ごせないほどの潮流を持っていたので、「日本は昔っから民主主義だし、今が大変だからと言って、誤った方向に向かってはいけない」というわけで

『五箇条の御誓文』というのがあって、これを冒頭に使いたい…と条件を付けたわけです。

GHQにその趣旨を説明すると「なるほど、こりゃいい。どうせだから全文付けろ」との指示が来て、こんな形に落ち着いた、というわけです。

国民はみんな知らないだろう(とGHQは思ってた)五箇条の御誓文を盾にとればより権威がついていいだろ、ってことですね。

昭和天皇自身が語った「詔書の真意」

昭和天皇自身もこの詔書については、1977(昭和52)年8月23日、那須の御用邸での会見で、次のように述べられています。

記者 ただ、そのご詔勅の一番冒頭に明治天皇の「五箇条御誓文」というのがございますけれども、これはやはり何か、陛下のご希望あったと聞いておりますが。

昭和天皇 そのことについてはですね、それが実はあの時の詔勅の一番の目的なんです。神格とかそういうことは二の問題であった。

それを述べるということは、あの当時においては、どうしても米国その他諸外国の勢力が強いので、それに日本の国民が圧倒されるという心配が強かったから。

民主主義を採用したのは、明治大帝の思召しである。しかも神に誓われた。

そうして「五箇条御誓文」を発して、それがもととなって明治憲法ができたんで、民主主義というのが決して輸入のものではないということを示す必要が大いにあったと思います。

それで特に初めの案では「五箇条御誓文」は日本人としては誰でも知っていると思っていることですから、あんなに詳しく書く必要はないと思っていたのですが。

幣原(喜重郎。当時の総理大臣)がこれをマッカーサーに示したら、こういう立派なことをなさったのは感心すべきものであると、

非常に称賛されて、そういうことなら全文を発表してほしいというマッカーサー司令官の強い希望があったので全文を掲げて、国民および国外に示すことにしたのであります。

記者 そうしますと陛下、やはりご自身でご希望があったわけでございますか。

昭和天皇 私もそれを目的として、あの宣言を考えたのです。

記者 陛下ご自身のお気持ちとしては何も日本が戦争が終わったあとで、米国から民主主義だということで輸入される、そういうことではないと、

もともと明治大帝の頃からそういう民主主義の大本、大綱があったんであるという…

昭和天皇 そして、日本の誇りを日本人が忘れると非常に具合が悪いと思いましたから。日本の国民が日本の誇りを忘れないように、ああいう立派な明治大帝のお考えがあったということを示すために、あれを発表することを私は希望したのです。

(『陛下、お尋ね申し上げます』p.253~p.254)

昭和天皇は生前、答えにくいことは「答えられない」と答えた人で、答えられることは正直に答えるというスタンスでした。

ですから、このインタビューで昭和天皇がウソをいう、ということはほぼ考えなくていいと思います。

最後に

通説として世の中に流布している話には、この「人間宣言」のように全文を読むことをあまりしないで、タイトルのイメージだけが独り歩きすることがままあります。

現在のテレビなんか見てたら、全編予断と偏見ということも珍しくありません。

今回改めて、この詔書を読み直してみて思ったのは「一度原文をさらってみると、イメージがガラリと変わるな」ということでした。

そんな「小さな発見」を積み重ねていくことで、自分のモノの見方が少しずつ良くなっていく、そんな経験をブログ主と読者が共有できたら嬉しいですね。

【参考文献】

昭和天皇の公式発言がほぼ網羅されている一冊です。いわゆる昭和天皇モノの関連書籍でもここがネタ元、というのがほとんどです。

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明日は8月15日なんで、「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び…」ばかり使われる玉音放送について書いてみます。全文読んでると、いいこと書いてるんです。

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