私は紙の本が大好きなんですが、kindle版もよく買っています。
それは、昔のベストセラーが簡単に買えるからです。
そんな中の一冊に、衣笠祥雄さんの『お父さんからきみたちへ』もありました。
これは衣笠さんが引退した年に出版された本で、1992年に文庫化されています。
私も確か、一回読んだことがあります。
その時感じたのは、真摯なまでに家族に、仕事に向き合う大先輩のひたむきさに、子ども心に感動したなぁと。
で、久しぶりに同著を見つけてkindle版をダウンロードしてみました。
親の心を感じて、倍感動する
私も、先日45歳になりました。
そうすると、子どもがいなくてもやっぱり、親の立場に目線が近くなります。
そんな、親目線で読んでみるとこの本が「やっぱり、いい!」
息子さん、娘さんに語り掛ける体で書き下ろされたこの本は、
「鉄人」でも「国民栄誉賞受賞者」でもない「一人の父親」として
率直に自分の人生を語り、その道のりで身に付けたもの、学び取ったことを
出来るだけわかりやすく、子どもたちに伝えようと努めています。
大体、親になるとみんな、ええかっこしいで失敗を語れる人って少ないと思うんです。
だけど、この本はあえて教えることで、ご自身の体験をできるだけキチンと
かけがえのない子供たちに伝えようとしている。
そこがすごくイイと思います。
遊びまくってクビ寸前から、プロとして進歩する
晩年の人格者イメージからすると、一番信じられないけど
カープ入団から2年くらいの衣笠さんは、野球そっちのけで飲んだくれたり
アメ車を乗り回して事故って球団に免許を取り上げられたりと、
相当はっちゃけていたらしいんです。当然、稼ぎはすっからかん。
スカウトから「このままだとクビになる」と言われて、ハッと我にかえったと書きます。
中学、高校と野球をしてきたお父さんは、
いつのまにか、 ほんとうに野球が好きになっていた。
だから、 希望を持ってプロ野球に入った。
ところが、 プロになったことをいいことに、野球をおろそかにしてしまった。
2年間、野球が好きだということをすっかり忘れて過ごしてしまった。
衣笠祥雄『お父さんからきみたちへ 明日を信じて』
(講談社文庫) (Kindle の位置No.423-425). 講談社. Kindle 版.
ホントかよ!?というレベルなんですが
ここで当時の監督、根本陸夫さんの話が出てきます。
根本さんと言えば、私の愛読書『根本陸夫伝』でも、確かに昔の衣笠さんはカーキチらしいとは書いていました。
クビ寸前と宣告された衣笠さんは、当時の監督根本さんに、こんこんと諭されます。
「衣笠、おまえはまだ二十歳。
今なら、 廊下で寝ろ!と言われても寝られるだろう。若さがあるからだ 。若さというのは、 何物にも代えがたい力だ。だからできるんだ。
でも、 おまえが六十歳になったとき、廊下で寝られるか? 道端で寝られるか?
どんなに惨めだと思う? それがわかるなら、キヌ、早く目をさませ」
そして、もう一言 は、「今、 おまえには野球をする場所がある。
人間、何かをやれる場所があるうちに頑張らないと、なくなってから頑張ろうと思っても、 手後れなんだ」
(講談社文庫) (Kindle の位置No.436-445). 講談社. Kindle 版.
そして、コーチの関根潤三さんや広岡達朗さんの厳しくも温かい指導の元、
赤ヘルブームの中心となる一人前の選手になったわけです。
私の世代だと、関根潤三さんと言えば「いいおじいちゃん」なんだけど衣笠さんにとっては、本当に怖い人だったらしい。
飲んだくれて合宿に午前3時に帰ってくると、合宿の明かりがついていて、関根さんは起きていた。
そこからバットを振らされた話は秀逸です。
個人的にビックリしたのが広岡達朗さんですね。
私、広岡達朗というと『管理野球』のイメージがガチガチにあって、妥協しない男のイメージなんです。
かつ、屁理屈なぞいおうものなら…ド正論で正面から粉砕する人のイメージ。それが…
そのころチームにはいろいろと厳しい規則ができて、
選手の門限も早くなり、禁酒令まで出ていた。
たしか、お父さんがカープのホームラン記録を一本超えたときのことだったと思う。
禁酒のルールがあったにもかかわらず、広岡さんは自らルール違反をして、お父さんに祝い のビールを一杯くれたんだ。
「新記録おめでとう」
と言ってね。
(Kindle の位置No.1421-1430). 講談社. Kindle 版.
奥さんとの馴れ初め、そして結婚への描写がホント、いい!
野球好きにはたまらないエピソードもちりばめながら
なにより心を打ったのが、選手生命を支えてくれた奥様との出会いと、結婚までの描写ですね。
先輩やコーチたちからプロとしての心構えを叩きこまれた衣笠青年が、
一歩一歩進歩しながら、当時付き合っていた奥様と結婚すべきかどうか真剣に悩みます。
大先輩で、大監督の水原茂さんの「3年プロでレギュラーを張れれば、10年プロで飯が食える」という言葉を読んで、
自分にハードルを課し、見事達成。
いよいよ、思いを伝えようと考えてからの描写がまた、素晴らしい。
ここは、引用を避けよう…ぜひ、読んでもらいたいところだから。
子どもにここまで自分の過去をさらけ出せるってのがスゴイ
さっきも書いたけど、人間って基本「ええかっこしい」だから
自分の失敗なんか、出来るだけ語りたくない。だけど、大事なことを伝えるときに、そこを抜かすと
ただの説教になってしまって、響くものが無くなってしまうわけです。
西本投手からのデッドボールや、大スランプなどの長い野球人生の中での
ものすごい逆境だったり、
ルー・ゲーリッグの記録を抜いた連続試合出場の時ような晴れの舞台で抱いていた心のうちを余さず書いているってのが、
ホント勇気があるよなぁ、と。
で、子どもたちのこともキッチリ見ていて、その眼差しが本当に優しい。
ご承知の通り、衣笠さんは2018年に他界され、もはや生の声をうかがうことはかないませんが
こういう時こそ、活字の出番だとおもうんです。
絶版になって久しかった本だけど、kindle版になったことだし、衣笠さんの現役時代をご存じない人にもぜひ読んでほしいなと、
そんな風に思った次第です。
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