20年ぶりくらいに、佐山和夫さんの「史上最高の投手は誰か」が読みたくなって
Amazonを探していたら「完全版」が登場してて、思わず買って読み始めました。
帯に桑田真澄さんが「夢が叶うなら、ペイジとキャッチボールしたい。僕のピッチング理論を裏付けてくれた偉大な投手です」と
熱いコメントを寄せていますが
読んでみるとその言葉が、誇張でもなんでもなく、むしろかなり控えめな評価だと思う
「米球界のポール・バニヤン」だと私は思いました。
全部実話なサチェル・ペイジのトンデモエピソード
その昔、アメリカのメジャーリーグでは、人種差別の壁があり黒人選手がプレイできませんでした(カラー・ライン)。
しかし、黒人が野球をしないかというと、さにあらずで
彼らは二グロ・リーグを始めとして、様々な場所でプレイをしていました。
んで、そういう舞台では、「ベーブ・ルースどころか、王貞治を超える通算本塁打を打った強打者」とか、「通算2000勝」とか
とんでもない非公式記録を持つ、スーパープレイヤーが存在していました。
そんな一人で、最も有名な選手がサチェル・ペイジ(1906?~1982)で、
上記の通算2000勝投手は彼の事。
それだけじゃなく、うち完封勝利は350以上、ノーヒットノーランが55試合。3試合ノーヒットノーラン達成…
そんなことできるのか?というと二グロ・リーグのシーズン中も
ダブルヘッダーを毎日のようにこなし、
オフシーズンは中米で投げたりメジャーリーガーたちのチームと対戦したりと「アルバイト」に精を出し、
ことごとくなで斬りにした彼なら、まぁ「それぐらい」はフツーにできそう。
投げる球の速さは当時の速球王で「火の球投手」と呼ばれたボブ・フェラーをして
「サチェルに比べたら、私の速球はチェンジアップ」というほど速く、人によっては170キロを超えてたという人も…
あるメジャーリーガーが初対戦して、その球の速さに驚いていると、キャッチャーから「チェンジアップ投げるな」と言われてて、二度びっくりした、とか。
しかも、速球投手というと「日本の伝説の速球投手」山口高志のようにコントロールに難があるのがフツーなのに、この人コントロールが抜群で
ガムの包み紙やコインを地面に置いて、その上にボールを投げるピッチング練習をしてみせたり
キャッチャーに「構えてくれたらソコに投げるから」と言って実際そうしたり(キャッチャーのレベルは色々だから)するコントロールの持ち主。
さらに、外野を引き上げさせて、さらに内野手を座らせて打者を3球三振をやってのけたり
9連続三振を予告し、難なく達成させて拍手喝采を浴びるという
もう、やることなすこと「チート級」。
そんな彼の全盛期は語る人ごとに変わるほど、太く長ーい選手生命を送り
カラー・ラインが撤廃された後、42歳でメジャー・デビュー。
それでも6シーズンで28勝を稼ぐといったあんばい。
メジャーの「晩年」では、主にリリーフ登板だったそうですが
ロッキングチェアで出番を待ってるおじいちゃんが、いざ登板すると快刀乱麻で相手を片付けるので
相手の監督が「あのじいさんが出たら終わりだ!早く点を取るんだ!」と呼ばれるほど恐れられたと…
二刀流の大谷翔平選手も、十分すぎるほどスゴイけど
こと「ピッチャーとして」なら、ペイジの方がすごい!と思ってしまうくらい。
「完全版」で体感、4割増し!
実はこの「完全版」の前に、図書館で借りた「サチェル・ペイジ自伝」上下巻も読んだんですが
まさに、痛快そのもの。
でも読みやすさや客観性は「完全版」の方に軍配が上がると思います。
ペイジって、サービス精神が旺盛で、こんなエピソードもあった、あんなエピソードもあると
色々盛りこんでくれるので、面白いんですが
「完全版」の方が、自伝の「その後」までをバッチリカバーしているんで。
実は完全版を手に取った時、以前文庫のオリジナル版を持っていた私は、「あれ?こんなに分厚かった??」とその本の厚さに驚いたんです。
倍くらいの厚さがしている気がする。
でも1984年に発行された本だし、フォントが大きくなったから増ページしたのかな、と思っていました。
最後まで読んで、まだ途中で「あとがき」が出てビックリ
その後、「サチェル・ペイジ追慕 フォロー・スルー」という追加分が加わって
これが120ページ近くあったんです。それまでが300ページ近くありますから、「4割増し」になっていたという。
これがまた、オリジナル版をさらに深く考えることになる、実に興味深い内容でした。
追加分で理解できた「我々は不幸ではない」の真意
オリジナル版を読んだ時、カラー・ラインなんて無粋な線引きをして黒人を締め出したのは
ホントペイジにとって気の毒だ、と思っていたのですが
この「フォロー・スルー」を読んでいると、オリジナル版でペイジが「私は不幸ではない。時代が早かっただけだ」と言っていた意味が
だんだん分かってきました。
私の頭の中では、草野球からセミプロ、独立系プロリーグの頂点にメジャーリーグがある
という「今のイメージ」がガッチリ出来上がっていたのですが、
むしろペイジたち二グロ・リーガーが、メジャーを凌駕する実力を持っていて、興行的にも大人気で白人も見に来るほど注目されていた存在だったということ。
で、人種の締め出しをしてるメジャーリーグなんかほっておいて、白人だけでなく
黒人、ネイティブ・アメリカン、日系人などのチームが「合衆国のへそ」カンザス州ウィチタに一堂に会して
「裏ワールドシリーズ」を1935年(昭和10)年に開催してた事実に驚きました。
…これって、WBCのひな形にもなる大会だなと。
そして、オール日系人チーム「ニッポニーズ・オールスターズ」はさしずめ「侍ジャパン」のご先祖さまみたいだなぁ、と感じたりして…
この「裏ワールドシリーズ」勝者には、メジャーの「ワールドシリーズ」勝者と頂上決戦をするプランがあったそうで…
コレは結局実現しなかったけど、両者は実力的にかなり伯仲したレベルだったと感じました。
こういう記述を読んでいると「メジャーが名実ナンバーワン」というのは、今を生きる私の視線であって
締め出されていたイメージのある二グロ・リーガーから見るメジャーは「野球をする場所の一つ」である、というイメージがあったんだな、と分かってきました。
そうみると、人種差別撤廃という動きはむしろ
白人だけのプレイヤーでやることの行き詰まりをいよいよ感じたメジャーリーグの、新たな打開策として有力なライバルからの引き抜きで
新たなスターを補強したという「逆」のイメージにも取れなくもない、と。
野球好きって色々いると思うんですが、野球史の話としても非常に興味深いし、
本編もフォロー・スルーも、当時の二グロ・リーガーたちがどんなことを感じていたか、とかを知ることは
知的に刺激的で、なによりワクワクしてページをめくるのが非常に楽しい。
ぜひ野球好き、歴史好きにおススメしたい一冊です。
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