この歳になると、かつて読んだ本が世間では忘却の彼方に消えてしまうということがよく起こるようになってきました。
出版業界では、よくある話なんですけどね。
私の中では、川口松太郎の『一休さんの門』『一休さんの道』各上下巻が特に印象に残っています。
ところで、誰だ川口松太郎って?という人に…
川口松太郎さんは、昭和で活躍した劇作家、作家です。
巧みな筋立てと独自の話術で庶民情緒を描いた大衆小説で多くの読者を獲得し、第一回直木賞受賞作家でもあります。
そして、この方の息子さんは、昭和の子どもたちを夢中にさせたこの方!
『水曜スペシャル 川口浩探検隊』の隊長、川口浩さんです。
大人の一休さんの物語
本作の一休さんは、懐かしのアニメで描かれる少年時代は一切ありません。30代あたりの壮年期の一休宗純から、話は始まります。
そこに食い詰めた2人の浮浪者が、一休さんのボロ寺にノコノコ迷い込んできたところから話が始まります。
寺の中で酒をしこたま呑んで、ヘベレケになった2人を一休さんが頭を剃って、いきなり弟子にしてしまいます。
腹が減ったら、托鉢だと弟子を連れて町に出る一休さん。当時並ぶものない権勢を誇る、細川管領の邸宅にもお構いなしにズケズケと入っていきます。
汚い坊主だとおもった人が実は、一休さんは後小松天皇(作中当時)のご落胤で、時の管領も一目置く人物だったと知ってガクブルするわけです。
更に、一休さんを訪ねる女性『おくろ』が登場。師である一休から紹介されて、にわか弟子2人はビックリします。
なんと!このおくろさん、一休さんと一夜を共にして子どもを設けた女性だったからです。
五戒を守る…なんてできない。
ところで、仏教には守るべき五つの戒律、五戒があります。
五戒とは、殺生、飲酒、邪婬、妄語、偸盗。つまり、
生臭を食べるな
酒を飲むな
エッチをするな
嘘をつくな
盗みをするな
これが僧侶が守るべき戒律だと言われていました。
が、実際は掟なんか守ってなくて、守ってますよ、とフリだけしてる。
お寺の外に愛人を囲ったり、子どもを設けたり、酒を飲んだり、それをいろいろ言い訳をする。
それは、他の戒律を破るのみならず嘘を戒めた「妄語戒」も破ることでは?と一休さんは考えた。
それなら、酒を飲むなら堂々と、生臭を食べることも隠さない、好きな人がいてもいいじゃんか!
時に人間として迷いに迷いながら、一休さんは堂々と開き直ります。
毀誉褒貶なんて知ったことか!
酒は食らう、タコとマグロを食べる、久しぶりに会う(二人は別居婚でもあり、事実婚)おくろさんにはイチャイチャと甘えまくる…。
僧侶だから、ととりすますなんてことは一切しない。
当然誤解されます。
また後小松天皇の皇子だという出自を政治的に利用しようとする輩も群がってくる。
それを、快く思わない人間にネタにされて誹謗中傷を受けることしょっちゅう。
…でも本人は全然気にしない。
世の中の評価なんて人様が勝手につけるものだと悟っているから。
でも人を、縁をとことん大事にする
建前を捨てて、正直に生きる。
どんな人も身分なんて全然気にしないで、あけっぴろげに受け入れる。
見た目は墨染の粗末な衣をまとうそこら辺の、お坊さんなのにいく先々で頼りにされて、
一休さんも、捨ててはおけないとみんなのために力を尽くす。
だから、実際に会った人はみなその人柄に惚れ込み「生き仏様」と尊敬を集めていきます。
弟子も最初の2人から、道々で彼を慕ってきた人間たちが、男女問わず増えてきて総勢8人まで増えていきます。
一休さんが好きで集まって来た一門は、まさに一休ファンクラブ。
時代は南北朝時代〜応仁の乱あたり、
嘘がまことに、まことが嘘に転じてしまうという訳のわからない中で、
あくまで正直に、誠実に生きる姿が清々しい。
現代は機転が利きズルく立ち回り、そのクセ偉そうにご託並べる人がはいて捨てるほどいるじゃないですか?
今こそ、一休さんに光が当たってほしいなぁ、と。
もちろん、書かれたのが昭和末期なんで、今の道徳とはちょっと違うこともなくはないけど、その辺は、文学ってことで勘弁してもらって
…当時新聞小説として連載していた読売新聞さん、文庫化した講談社さん、このまま絶版にしてないで電子書籍でもいいから復刊しましょうよ〜
ちなみに、私タダ同然でAmazonで買いました。読み直したらやっぱり面白かったですよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。この記事が面白かったらTwitterリツイートやシェアボタンでの応援よろしくお願いいたします。
コメント