この歳になると、かつて読んだ本が世間では忘却の彼方に消えてしまうということがよく起こるようになってきました。
出版業界では、よくある話なんですけどね。
私の中では、川口松太郎の『一休さんの門』『一休さんの道』各上下巻が特に印象に残っています。
大人の一休さんの物語
本作の一休さんは、懐かしのアニメで描かれる少年時代は一切ありません。30代あたりの壮年期の一休宗純から、話は始まります。
そこに食い詰めた2人の浮浪者が、一休さんのボロ寺にノコノコ迷い込んできたところから話が始まります。
寺の中で酒をしこたま呑んで、ヘベレケになった2人を一休さんが頭を剃って、弟子にしてしまうという顛末から物語が転がります。
細川管領の邸宅に托鉢に入る一休さんに驚愕!!実は、一休さんは後小松天皇のご落胤で、管領も一目置く人物だったと知ってガクブルするわけです。
更に、一休さんを訪ねる『おくろ』が登場して更に2人は驚愕します。
なんと!このおくろさん、一休さんと一夜を共にして子どもを設けた女性だったからです。
五戒を守る…なんてできない。
ところで、仏教には守るべき五つの戒律、五戒があります。
五戒とは、殺生、飲酒、邪婬、妄語、偸盗。つまり、生臭を食べるな、酒を飲むな、エッチをするな、嘘をつくな、盗みをするな。
これが僧侶が守るべき戒律だと言われていました。
が、実際は掟なんか守ってなくて、守ってますよ、とフリだけしてる。
お寺の外に愛人を囲ったり、子どもを設けたり、酒を飲んだり、それをいろいろ言い訳をする。
それは「妄語戒」を破ることでは?と一休さんは考えた。
それなら、酒を飲むなら堂々と、生臭を食べることも隠さない、好きな人がいてもいいじゃんか!
人間として迷いに迷いながら、一休さんは堂々と開き直ります。
毀誉褒貶なんて知ったことか!
酒は食らう、タコとマグロを食べる、おくろさんには甘えまくる…。
とりすますなんてことは一切しない。
当然誤解されたりします。
また後小松天皇の皇子だという出自を利用しようとする輩もやってくる。
それをネタにされて誹謗中傷を受けることも当然出てきます。
…でも本人は全然気にしない。
世の中の評価なんて人様が勝手につけるものだと悟っているから。
でも人を、縁をとことん大事にする
建前を捨てて、正直に生きる。
どんな人も身分なんて全然気にしないで、あけっぴろげに受け入れる。
見た目は墨染の粗末な衣を纏うそこら辺の、お坊さんなのにいく先々で頼りにされて、
一休さんもみんなのために力を尽くす。
だから、実際に会った人はみなその人柄に惚れ込み「生き仏様」と尊敬を集めていきます。
弟子も最初の2人から、道々で彼を慕ってきた人間たちが男女問わず増えてきて総勢8人まで増えていきます。
一休さんが好きで集まって来た一門は、まさに一休ファンクラブ。
時代は南北朝時代〜応仁の乱あたり、
嘘がまことに、まことが嘘にという訳のわからない中で、
あくまで正直に、誠実に生きる姿が清々しい。
今こそ必要な本だと思うんだけどなぁ
…連載していた読売新聞さん、文庫化した講談社さん、絶版にしてないで復刊しましょうよ〜
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