今年は「世界史をやるぞ!」と宣言してはや5ヶ月。
柱となる正史がイマイチ固まっていません。
まぁ、方向転換というか、気分転換のつもりで、高校生向けの岩波ジュニア新書の『砂糖の歴史』を読み始めてみた私です。
これがね、結構面白い。学生向けというけれど、昔やった世界史の事柄が「砂糖」というキーワードで繋いでみると白くて甘い「砂糖」が人類をさんざん振り回してきたことが分かる、いい一冊になっております。
高級品から、庶民の調味料へ
砂糖は、ご存知サトウキビやビートなんかから取れる天然甘味料です。
昔から、甘さというのは人類が求めた味の一つで、古くはハチミツやでんぷんを分解してつくった飴なんかまで、甘いモノというのは人類を魅了し続けていました。
そんな中インドネシアに自生していた植物から派生したと言われるサトウキビと、そこから精製される砂糖は、ぶっちぎりで甘く、イスラム商人を通してヨーロッパ世界へもたらされ、超高値で取引される貴重品でした。
それが、大航海時代になって、栽培に適した中米にサトウキビだけを育てるプランテーションが作られ、砂糖の大量生産が始まると、
もともと、王族や富豪などがクスリやステータスシンボルに使っていた貴重品から、一般庶民が手軽にカロリーを補給できる普段使いの存在まで下りてきます。
今、私たちが生活している中で、食品を見てみるとまぁ砂糖がタップリと含まれています。
そうなるまでに、数百年の過程を経て、様々な社会変化を砂糖というモノはもたらしたと言えるわけです。
甘い砂糖の持つ、ダークな歴史
とはいえ、です。光あれば闇あり、というのは世の常で、この砂糖がここまで普及するのにくぐり抜けてきた歴史は、中々ダークな歴史だったりします。
まず、中米でプランテーション栽培された、と言いましたが、
このプランテーションで労働に従事したのはアフリカ大陸から「輸出」された黒人奴隷たちでした。
ヨーロッパからアフリカへは、繊維製品、ラム酒、そして武器が輸出され、その武器で武装した連中が敵対する部族を捕まえて、「黒い積み荷」奴隷として売り飛ばす。
奴隷を満載した船は中南米に運ばれ、プランテーションで作られた砂糖、すなわち「白い積み荷」が積み込まれてヨーロッパへ運ばれる。
コレをグルグル行う、「三角貿易」で莫大な富を得たわけです。
著者が一章を割いて「砂糖のあるところ奴隷あり」と喝破しているのは、まさにその通りというわけです。
こうして膨大な量の砂糖がヨーロッパへ持ち込まれ、末には、アジアから持ち込まれた茶葉とともにイギリス人労働者のカロリー源として使われるほど、安価に供給されたわけです。
一方、この三角貿易で発生したダメージはアフリカの経済発展に必要な成人男性の労働力を荒廃させた他に、プランテーションで商品作物を作っていた場所は安値で商品を買いたたかれて、国の発展が阻害され、今に至るまで後遺症を引きずる「負の遺産」として残されています。
「近代世界システム」を24年ぶりに理解
砂糖の流通システムのように、システムが関わる国の政治経済の形や社会構造と言ったものに影響を与え、変化を促したり、動かすさまを歴史学者のウォーラーステインは『近代世界システム』という本にまとめました。
実は、この本、大学時代の「世界史」の授業で読まされた本でして…あの頃は、ブツブツと小難しいことを喋る世界史の先生のせい、というか自分の勉強不足のために、小難しいと敬遠していたのです。
しかし、この砂糖という世界商品の歩みを表すのに、この近代世界システムがやたら便利で、分かりやすい。砂糖の歴史をその視点から見ていくと、結構な時期の世界史の事柄を裏打ちして理解をしやすくする便利ツールになっていました。
なもんで、この本を読んでいて「あの本はこういう意味だったのね?」と思っていたんですが、読み終わって著者プロフィールを見たら、あの『近代世界システム』の訳者が、この本の著者、川北稔さんだった、と知ってビックリしました。
奥付を見たら、この本の初版は1996年。大学時代にはすでに出版されていたことも分かって「この本を読んだら、もうちょっとあの小難しかった退屈な授業が面白くなっていたかもな」と思います。
そして、この本は高校生をコアな読者に据えている岩波ジュニア新書に入っているのですが、世界史を別の視点から見るのに、メチャクチャ便利です。
以前紹介した伊藤章治さんの『ジャガイモの世界史』とともに、大人の読者にもおススメできる歴史本だと思います。ご興味のある人はぜひ読んでみて下さい。
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