昔の野球小説もメチャクチャ面白いぞ!海老沢泰久『監督』を読む

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これまで、タイトルを忘れるくらい様々な本を読んできた私ですが

人に意外に思われるほど、小説は読まない方です。

どちらかというと、ドキュメンタリーとか評伝なんか、あとはバラエティ関係の本なんかが

多かったりします。

かといって、小説を全く読まないかというと、そうでもなくて

先週、フト思い出した小説をもう一度読みたくなりました。

海老沢泰久『監督』

それは、海老沢泰久さんの『監督』という小説。

確か、大学の時に読んで面白いなと感じた本の一冊です。

主人公は、広岡達朗。実在の同名人物を主人公に、架空球団のエンゼルスの監督にして

万年ダメチームだった「ドンケツエンゼルス」を強豪チームに育て上げる話です。

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第一次長嶋政権の頃のジャイアンツと戦う架空球団「エンゼルス」

このエンゼルスですが、オールドファンだと

実在の方の広岡さんが監督として優勝に導いた、ヤクルトスワローズがモデルだというのは

すぐピンと来る内容になっています。

あ、松岡弘だ、若松勉に似てるぞ!これは大矢さんだな…という風に

また、広岡さんにしても、川上哲治さんとの確執でジャイアンツを飛び出し、

結果として川上さんのように守り勝つ「ジャイアンツの野球」を徹底するところなんかは

割と事実に近いと思います。

そして、他球団は実在の選手が出て来てて、

特にライバルとなる「王者」ジャイアンツには

堀内恒夫さん、小林繁さんや新浦寿夫さん、西本聖さん、王貞治さん張本勲さんやシピンさんといった懐かしいスターも実名で出てきます。

小林さんが巨人に出るというのは、まだ江川さんが入団してないころですね。だから舞台は1977年シーズンに近いのかな。

ダメな選手に、自分もなってないかなぁ…と反省。

で、万年最下位周辺をウロウロするエンゼルスは

ホント「負け犬根性まっしぐら」。自分の仕事に責任を持たず、エラーしてもドンマイで

シーズンが終わると、練習そっちのけでお疲れさまの温泉旅行にゴルフというぬるま湯体質。

で、こういう所で生え抜きで育ったコーチというのが

楽しく野球をやろう、ノビノビやろうというお題目で、選手を甘やかし向上心をつぶしちゃう

「組織のガン」で、広岡さんの足を引っ張るのが、途中までホントいらいらしますね。

ただ、昔読んだ時は「腐ってんなエンゼルス…」と他人事のように思ってたんですが

今、組織に属して仕事していると、割と選手たちの心模様ってのが、会社あるあるなんで面白い。

出来ないヤツほど「束縛されずにノビノビやりたい」と好き勝手に手を抜いていたり

目覚めかけてもちょっとしたことですぐに昔に戻りそうになったり…

だけど、戦い続けるうちに選手たちが覚醒して、監督の意図を読んで自分も動くということを学び

王者を向こうに回して奮闘するのが面白いんです。

小説に見え隠れする「黒い霧」の余韻

先ほど言ったダメコーチは、どんどん主流から外されて

最後にはかつて球界の「黒い霧事件」を疑われた反社の人物と

八百長をでっち上げてチームを追い出されるという結果になります。

この本でも、そのエピソードは優勝へと力を付けたエンゼルスを襲う、最後の逆境として立ちはだかることになるんですが

このエピソードの描写を読んでいると、黒い霧事件当時の当事者チームって

野球やる前に、疑心暗鬼になって集中できなくなるだろうなと。

小説では、オーナーがビジネスで見せる剛腕ぶりを発揮し、広岡さんのピンチを救うことになるんですが

かつての西鉄のグダグダな八百長への対応とは真逆な感じで、

こういうオーナーがいてくれたら

池永正明さんも球界追放にまでならなかったのになぁ、という風に当時の読者は思っていたのかな、とふと思ってしまいます。

ちょっとかわいそうなくらい、長嶋さんが戯画化されてる

広岡さんが主人公で「合理的で、王道の野球」を追求するほどに

本来王者のはずの「長嶋巨人」が戯画化されるのは避けられません。

私、長嶋さんも好きなんで、よく西本さんとか、鹿取義隆さんの動画見ますけど、もっと違った意味で熱血なんだけどなと。

作中では…ピッチャーが打たれるとすぐ交代するし…これって、リアル長嶋も当時はそうなんだろうか?

と思っちゃうくらい尋常じゃないくらい短気です(笑)

あと、超攻撃的な手を好んで繰り出す…とか。なんか極端だなとは。

だから、覚醒したエンゼルスの引き立て役になって降板という感じにも描かれてしまいがちなのがちょっと気の毒ですね。

また、物語の後半では、エンゼルスのオーナーに

「長嶋はスターだから、監督になると批判が全部選手に行く、ジャイアンツのためにならず、ひいては野球界のためにならないから広岡を返してくれ」という謎の電話も出てきます。

セリフから言って、編成っぽいですよね。

少なくとも、そこら辺の巨人ファンの電話じゃない。

私はこの時代の顛末を知ってるんで

このころからやっぱり「長嶋監督を下ろしたい」という勢力、いたのかなぁと思っちゃいます。

歳を取るとやっぱり読むところが変わって面白かった

まぁ、昔読んだ本を再読するといつも感じることは

「昔と面白がるポイントが変わったな」というところですね。

自分が広岡さんの下で働く選手なら、長嶋さんの下でプレーするならとか

選手の描写を読みながら、「どんな気持ちで投げてるのかな」と考えたりは良くしましたね。

350ページを超える割と長い作品ですが2,3日で読み通せてそんなに負担にならなかった。

野球を知らなくても、そんな人間模様を読んでいると、色々面白い。

この本は1995年に文春文庫で「復刻」しましたが、図書館で借りた時には書庫の中から持ってきたくらいで

かなり古い作品です。ただ、人間の考えることって割と変わらないなとはちょっと思ってて、

野球のオールドファンが昔のエピソードを思い出しながら楽しむだけでなく

今読んでも十分に面白かったのが、収穫でしたね。

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