もうすぐ、新入社員が入るころです。
わたしも何回か経験したけど、職場の引継ぎって難しいですよね。とくに、新人は右も左も分からないから試行錯誤が続く時期であり、
同時に口出しをするか、ガマンをして見守るかなど、考えどころが多いもの。
この記事では、長年昭和の宮中で働いて来た、入江相政侍従長(1905~1985)が行っていた昼食会のエピソードから「経験を引き継ぐヒント」を考察したいと思います。
宮中で約50年以上働いた「生き字引」が昼食会に参加する
この入江侍従長、1934(昭和9)年から、1985(昭和60)年の退官まで実に50年以上のキャリアを誇りました。
そして、侍従長になってから、退官後に後継として侍従長となる徳川義寛侍従次長とともに
ヒラの侍従の昼食会に加わるようになったそうです。
昼食会と言っても、食堂から取り寄せるものらしく、内容は「上」と「並」の2種類。
参加者は、入江侍従長、徳川侍従次長、そして当直をのぞく5人の侍従の面々で
昼の12時~午後1時に食事をしながら、話をするのだそうです。
この記録を残した角田素文侍従は最初「せっかく皇居の中を好きに散策できる自由時間に、食事会なんて面倒だな」と感じたそうですが
これが実は、仕事に大いに役に立ったと言います。
侍従の掟…一度伝わったことは全員が知っている
侍従という仕事は、天皇の日常の補佐を行うのが最大の役割です。
そして、その中には陛下から「今後はこうするように」という伝達事項があるならば、それは速やかに周知されている、という不文律が存在します。
昔は、プロパーで侍従にあがり、長年の侍従生活でそういった経験を積んで行って体得するものだったのですが
昭和の途中からは、侍従は各省庁の出向者が加わることになりました。
そうすると、同じ役所でも、文化がまったく違うところから、やってこなければならない。
そんな人たちにアドバイスをするなら、食事と言う時間を上手に使うのが適切…そのように入江侍従長は徳川侍従次長と相談して、昼食会を活用するようになったのでしょう。
顔を合わせて「すり合わせ」する
食事会ではまず、お食事を済ませた後、コーヒー、紅茶、ミルクなどにお菓子をつまみながら
「打ち合わせ」が始まる、と言います。
ここで、行事の予定、また当直侍従から全侍従が知っておくべき事項の「すり合わせ」を行うと言います。
これは先ほど言った掟「一度伝えたものは侍従全員が知っている」というものに必須の内容で、
陛下の前で真意を測りかねたものでも、経験豊富な侍従長&侍従次長コンビが判断してくれるわけ。
角田さんいわく「ここで知ったことは当直で役に立ったことばかりで、うっかり聞き漏らしたばかりに立ち往生をして悔しい思いをしたこともある」と書き残しています。
また、侍従職のツートップが同席しているので、ついでに「こうしましょう」という意思決定が早いというのも、ありがたかったようです。
雑談は「侍従長の失敗談」だから、楽しく勉強になる実践編に
その後、行われるのは「雑談」。この中心になるのは、侍従長。
当ブログでは、「ドジっ子侍従長」というキャラ付けを勝手にしているのですが、そんなドジが伝わっているのは、ご本人が書き残しているから。
書くのがうまいなら、話はなおの事面白い。
あんな立派な人が…という失敗談で「どうして、そんな失敗が起こったのか」と面白おかしく話してくれるので
説教臭くなく、スーッと侍従たちの記憶にも染み入っていったそうです。
これで、とっさにどうしたらいいのかを間違えずに済んだ、と角田さんも回顧していました。
また、侍従生活が半世紀に及ぶもんだから、話も色々。
中には古巣の事に触れられて「…いや、それはですね…」と弁明したり、「あの時はこうでありました」と古巣に代わって熱弁をふるうものもいたりした、自由闊達な雰囲気も持ち合わせていました。
狭い人間関係ながら、お互いの事情も呑み込み、チームワークで陛下を補佐する侍従のお仕事。
入ったばかりで、右も左も分からない新米もすこーしずつ、必要な様々なしきたりや段取りを体で覚えていくことができたそうです。
令和でも「相手をよく知る」「人を見て法を説く」は普遍
まぁ、今は「プライバシーは別」という事情や、コロナ禍での生活の変化もあって
ブログ主の若い頃も大分減りましたが、それ以上に今は上司が「おい、飲みに行くか」と言う機会もなくなったと思います。
ただ、私が思うのは、やっぱり人間関係は「相手をよく知る努力」を作ることが大事だなと痛感しています。
これは別に「上から下」だけでなく、「下から上」もそうで、
日常から挨拶から始まって、相手にアドバイスをもらったりするクセをつけておくと仕事が実にスムーズになります。
また、人に話すときには「自慢より失敗談」がいい、というのも変わらないですわな。
今は、強制的な飲みニケーションとかが少なくなっている分、自分で工夫して、相手を思いやり、気持ちよく仕事が出来るように、努力をしていきたいものです。
【参考書籍】
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