15歳の眼差しから、不思議の国を旅する~佐藤優『十五の夏』

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この記事では佐藤優『十五の夏』について紹介します。

佐藤優『十五の夏』上下巻

作家の佐藤優さんが高校一年生の東欧、ソ連への旅を描いた自伝的作品で『先生と私』の続編になります。

しかし、時間線として連続している、という意味だけなので単独した旅の小説として読んでも十分面白い。 いや、面白さでは前作を凌駕しているかなと思います。

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高校生で「謎の国を旅する

内容は佐藤さんが15歳の時に、東欧とソ連を旅行した際の思い出と、

その旅にまつわる、大人たちとの交流が丁寧に書かれています。

ソ連崩壊後に生まれた方々には想像もできないでしょうが、当時のソ連、東欧といえば共産主義。

アメリカや西欧といった資本主義の国と対立する謎のベールに包まれてたおっかない国だったのです。

その共産圏に、15歳で一人旅。佐藤さんの父親は「自分たちと違う社会、国を見てくるといい」と大枚をはたいて佐藤さんを送り出します。

私が心惹かれたのは、漠然と「怖い」という感情など持たず、好奇心と素直さでぶつかっていく佐藤少年の驚くべき行動力と、聡明さ。そして、佐藤少年を導いていく大人たちの優しさ。

極めつけは、文通をしていたといえ、実際に会って数日で佐藤少年の心に深く刻み込まれたブダペストのペンフレンド、フィフィとの友情でした。

聞くのと見るのじゃ大違い!

彼は旅行前、これから向かう国々のことを本で予習したようですが、 実際にその国に入るとその情報がしばしば違っていて驚く姿が描かれます。

食事が不味いと書かれていた国が、実際にはとてもおいしかったとか、不親切な人が多い国と学んでいったら、佐藤少年のために一生懸命動いてくれる人が多かったりした、とか。

また、日本では当時、好意的に受け止められていたルーマニアに入った際は、徹底的な監視社会の息苦しさを肌身で感じたりもします。

*冷戦終結後にルーマニアではチャウシェスク大統領のとんでもない独裁っぷりが明らかになるのですが、当時は左翼思想が今とは比べられないほど強かったことも、大きかったと思います。

ルーマニアのチャウシェスク大統領(当時)

そして、出会った人と対話を重ねながら(高校生の英語でそこまでできるのはスゴイ)東欧とソ連は同じ共産国でありながら、国民レベルの感情、考え方が全く違うことにも気が付きます。

後に彼は、同志社大学神学部で 共産主義との対話を進めたチェコの神学者、ヨセフ・ルクル・フロマートカの研究に没頭します。

おそらく、彼にとってこの体験がその原点になったのでしょう。

佐藤優の未来を暗示するような出来事

そして、この旅に欠かせないのが、その場その場で出会う大人たち。

まるで予言者のように「この旅は君の未来に間違いなく影響を与える」と話すこと。

そういった出会いのエピソードもタップリ盛り込まれます。

例えば、モスクワ放送の人々。

日本出発前から、モスクワ放送日本語放送に親しんでいた佐藤少年はファンレターを何度も送っていて、局内で結構有名なリスナーだったそうです。

当時のモスクワ放送は、政治的プロパガンダよりも、ソビエト内の文化紹介に力を注ぎ、「より、ソ連という国を知ってほしい」という内容だったといいます。

モスクワについた佐藤少年は、 旅の前にモスクワ放送の日本支局長からもらった紹介状を持って本局に行き、

人生初のラジオ出演までしちゃいます。

ソビエトの旅の感想を求められ、「言い過ぎたらマズいかな」とさすがの彼もためらいますが、体験に基づく彼のコメントは大好評。ちゃんと出演報酬もいただきました。

彼は後に外務省に入省し、ノンキャリアとしてソ連に赴任し、凄腕外交官として名を上げ…

そして現在は、ラジオでコメンテーターも務めています。 これも後の彼の人生を暗示するような出来事かな、と感じずにはいられません。

人との付き合いは、長さでは測れない

この本で、おそらく読んだ人がみな一様に感銘を受けるのは、ブダペシュトの文通相手、フィフィとの交流ではないでしょうか。 下巻の佐藤少年と映る少年がフィフィです。

佐藤少年が自宅を訪ねて行ったらたまたま旅行中で、滞在できる時間だけが刻一刻と減っていく中 間に合って、フィフィに会うくだりは、読んでて鳥肌が立ちました。

そして、そこから出発までの数日間は、読者も引き込まれるような超濃密な経験が描かれます。

人って、何年も付き合っていてもさして深い関係にはならないことが多い。逆に、たった一回会っただけなのに、ものすごい印象を残す出会いも、またあるんですよね。

彼のご家族もまたすごくいい人たちで、佐藤少年の父親と同じく「違う体制の人を知ることでより、自分の世界の見方が豊かになる」と信念を持ち、また佐藤少年に対し、率直に語りかけてくれる。

最後に明かされるその後の話ともども、このエピソードは必読だと思います。

異なる社会、異なる人を理解する大切さ

さて、40代の私が、『十五の夏』を読んで強く感じたことは

「思想信条を超えて、人と社会を知り交流をする大切さ」だと思うのです。

私、ツイッターもやっているのですが、まぁ、言葉の撃ち合いのような乱暴な応酬があるんですね、ホントに。

でも、人間は一人ひとり違うんです、性格も育ちも。

異なるものを強調して対立するのではなく、色眼鏡をかけずありのままの相手を見て、お互いの関係を構築していく方が、なんぼか楽しいではないですか。

旅行記の類の面白さは、自分にとってはアウェーの環境でその違いに驚きつつも

違う社会、文化の中にも自分と共通したり、共感できることがあったという喜びにあるんじゃないかと思うわけです。

ちょっと、最近は乱暴な物言いが目立つ昨今なんですが、 こういう時だから「相手を知る努力」を重ね、豊かな関係を築き上げることを学び続ける佐藤少年の旅に心惹かれるのではないかと、僕は思うのです。

【関連記事】

佐藤優『友情について』を読む

この小説の中でも出てくる同級生、豊島昭彦さんと佐藤優さんは後年に再会を果たしますが、その後間もなく豊島さんは末期のガンと診断されます。

そんな彼に佐藤さんがアドバイスしたのが、自身の本を書くことでした。

この本『友情について』と題された作品は人のつながりが長さでは測れない、ということを改めて感じさせます。

 

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コメント

  1. 五木寛之さんも旅行好きな作家さんですよね。機会あれば是非レビューを!!

    • とーちゃん m_alternative より:

      コメントありがとうございます
      五木寛之さんは何冊か読んでいるので、ブログで紹介できればいいですね。

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