「カクレキリシタン」と世界史を繋ぐ

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2018年5月に佐藤優氏が、同年6月に第42回世界遺産委員会で登録された「長崎県と熊本県、天草地方における潜伏キリシタンの関連遺産」についてコメントしていました。

佐藤さんは、元外務省主任分析官で作家。キリスト教徒でもあり、組織神学の研究をしていた人物です。このブログでも、「本の読み方」や外国語学習について、彼の著作を紹介しています。

この佐藤さんが様々な視点からこの事の意義を説き明かしていたのが、面白いですし、興味深い。

旧ブログに書いたものに、私なりに修正加筆してこちらに移すことにしました。

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潜伏キリシタン?カクレキリシタン?なんだそれ?

まず、「潜伏キリシタン」とは、何だろうという佐藤氏。私の子供の時は「隠れキリシタン」と呼ばれていましたし、教科書にも書かれていたと記憶しています。

話によると「潜伏キリシタン」は、比較的新しい言葉です。

日本におけるキリスト教信者は島原の乱(1637年〜1638年)を頂点とする1630年~1640年の時期に激しい弾圧を受けました。

その弾圧の中、表向き仏教や神道に信仰を変えたと見せかけて、ひそかにキリスト教を信仰していた人々がいました。これが「潜伏キリシタン」と呼ばれる人々です。

明治維新後、禁教令が解けてカトリックが日本に戻ってきたときに、この潜伏キリシタンが二つに分かれました。

潜伏キリシタンの教えは長年宗教指導者を仰いで崇拝したわけではなかったので、200年以上の歳月の中で他の宗教や土着した習慣などと混じりあい、教義や儀式がかなり変質していたのです。

潜伏キリシタンたちは先祖が入信していたカトリックの教えを受け入れた人々と、先祖代々の「変質」したままの教えを依然守る人に分かれました。

後者の人々ことを現在は「カクレキリシタン」とカタカナで表記するそうです(カクレキリシタンもローマ教会は仲間として受け入れているが、その数は少なく、人数も減り続けているそう)。

侵略する気満々だったスペイン・ポルトガル

さて、この潜伏キリシタンについて、どう考えるか…と佐藤さんは問いかけます。

キリスト教の禁教と密接に関係するのが、いわゆる「鎖国」です。

日本人は「キリシタン狩り」というと、残酷な宗教弾圧であり、「鎖国」をとんでもないことと考えがちですが、

もし仮にキリスト教を禁教とせずに放置していたら、日本が植民地となる可能性も十分にありました。

例えば、少し時代は遡りますが

大航海時代と呼ばれる時代にはコンキスタドロスと呼ばれる「ゴロツキ」がアメリカ大陸に進出し、当時のインカ帝国を崩壊させました。

のみならず、天然痘を持ち込んだ結果、免疫を持たなかった当時のインディオは壊滅的な打撃を受けています。

また、フィリピンやマカオなどさらなる侵略拠点としての脅威もある以上、当時の為政者たちの判断が間違っていたとは断言はできない、なかなか剣呑な情勢にあったわけです。

カトリックとプロテスタントが30年バトルロワイヤル

日本でキリスト教が激しく弾圧された1630年~1640年当時、ヨーロッパで起こっていたことは三十年戦争です。

カトリックと新教徒が血みどろの戦いをしていました。

三十年戦争の当時のイラスト。キリスト教徒同士でこんなことしてました。

そんな中、ヨーロッパの外でもいわば、「縄張り争い」が繰り広げられたことを見逃してはならない、と佐藤氏は話します。

ちなみに、日本は鎖国と言われた時期においても、全く海外との関係を断つことはありませんでした。

要は「キリスト教を布教しないならいいよ」ってことで、北海道の松前藩ではロシア、対馬を通じて李氏朝鮮、出島では清やオランダなど、いくつかのチャンネルが存在し、そこからさまざまな文化・技術が入ってきたわけです。

布教を侵略のネタにするのはカトリックの常套手段でしたが、商売オンリーのプロテスタント国家が力を持ったという海外事情が生まれたことで、日本の対ヨーロッパ交易が可能になった、といえます。

価値の押し付けは、反省すべき

日本人はこの問題については、歴史的背景を踏まえつつ、バランスよく判断することが大事だと、佐藤さんは語りました。

現代のヨーロッパ側からは

「その国に受け入れられるような穏やかな手段を取らずに、ヨーロッパの価値観を一方的にアジアに押し付けた」

との考え方を持つべきではないだろうか、と佐藤さんは結んでいました。

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