この記事では、30年以上前から続く人気シリーズ、倉田よしみさんの『味いちもんめ』について書きます。
主人公が料理の道を歩み成長する様子が面白い本作ですが、多彩な登場キャラクターや
人間の機敏や人情を絡めたストーリーは、大人が読んでも面白いマンガとして今なお人気です。
中でも秀逸なのがドラマ化もされた一番最初のシリーズ(以後『無印』)なんです。
なぜ、無印にこだわるか?
本作は30年前に連載開始した無印から、『新・味いちもんめ』を経て、主人公が店を任される『独立編』、そして現在スペリオールで連載中の『継ぎ味』へと変遷を辿っています。
主人公は一貫して、伊橋悟くん。
彼が、修行を始めたばかりの頃から、修行を重ねていく姿が本当に味わい深い。
読み始めたのは10年くらい前からで、リアルタイムの連載も追っかけていますが…
なんと言っても、最初の無印がいっとう、面白い。
それ以降がつまらない、という訳ではないんです。普通に面白いし、時代時代の空気を料亭の板場から上手に描き出すあたりは、伊達に連載を続けていないなと思います。ただ、
無印の面白さがダントツなんです!
『無印』が面白い理由①…伊橋が未熟なこと
長期連載の難しさだと思うのですが、長く連載を続けていくと、「成長のポイント」が分かりにくくなっていきます。
特に下っ端の時なんかは、それこそ毎日が修行続き(ということは、毎日何か伊橋が事件を起こしたり、そこから学んだりする)。
また、続編と違って、まだ料理の世界に確固とした職業意識もない。
プライベートでも風俗が大好き。藤井フミヤ(時代が分かる)ばりにカッコ付けようと粋がったり、
稼ぎがいいお粥のフランチャイズの店長にと誘われたりするとフラフラしたり…「若いなぁ」と感じますね。
だから物語の舞台、料亭藤村では、年中叱られ、場合によっちゃぶん殴られ、
上の人が辞めて自分が、身の丈以上に頑張らなきゃいけないなんて展開がうまい具合に回っています。
そして、バブルが弾ける前後なので、じっくり人を育てる余裕がある時代。一人一人の成長をじっくり待てる雰囲気なのもいいんです。
『無印』が面白い理由②…本格と場末の切り替えが上手
場末、というと口が悪いのですが、
彼の勤めている料亭藤村に一話限りで流れ板と呼ばれる料理人が来たり、彼が助っ人として温泉宿の調理場に立ったりする話が挟まれます。
時代は昭和末期〜平成初期なんで、まだまだ景気はいい。
だから、
という訳ではないでしょうがよく言えば大らか、悪く言えばいい加減な料理人がいて、
そのトラブルに若き日の伊橋くんがガンガン巻き込まれます。
だけど、その都度「料理人とは何か?」という問いが常について回り、本格的な仕事をする藤村の流儀に立ち返って、いい経験を積む伊橋くんの姿が、読んでて爽やかな印象を与えることに成功している、と思います。
『無印』が面白い理由③…常連客の存在
無印には、必ずと言っていいほど通ってくる「常連客」の存在は欠かせません。
花板の熊野の親父さんの親友、三遊亭円鶴師匠や、村野社長など、藤村の仕事を愛して入り浸り、時々来る困った客を店に代わって一喝したりします。
常連客の存在はときに藤村の職人たちにもサジェッションを与える一方で、
彼らが、お店で学ぶこともあったりと、「店と客」の立場を超えて人として深く繋がり合う姿が非常に面白い!
続編になると、「店と客」が明確に分かれてきてこの辺りが希薄になるのは、残念なことですが…時代、なんでしょうね。
『無印』が面白い理由④…「ボンさん」の圧倒的な存在感
『無印』とその後の最大の違いは、ボンさんに相当する多面的な存在を入れられなかったことかもしれません。
お坊さんをやってて、しくじって流れ流れて料理人になった、というボンさんは第2話から登場してきます。
つかみどころのない性格で伊橋同様、風俗大好きという生臭ぶり。
しかし人生経験の豊富さから、上役にもひと言言えたりするし、
はるかに年下の伊橋ともじゃれ合うことも出来る脇の深さも持っています。
かと思うと、思わぬ過去の縁でちょっとホロリとさせるかと思えば、
京都の大富豪との過去の縁があったりと、この人を一枚かませることで話のバラエティが格段に広がるんです。
最新作の『継ぎ味』では、無印時代から板場最年長にもかかわらず相変わらず健在!
『継ぎ味』のこれからの鍵を握るのは、ボンさんの存在ではないでしょうか。
今読んでも充分面白い!
味いちファンでも、やはり最初が面白かったという、
『無印』についてあれこれ述べてきましたが、とにかく時代背景や登場人物の配役が絶妙です。
そのせいか、コンビニコミックで何回も発売され、割と気軽に入手できるのもいいですね。
まだ読んだことのない方、ぜひご一読をおススメします。
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