最近、kindleでも昭和天皇関連の書籍がデジタル化が進んでいるみたいで、これまで手に取らなかった書籍もすぐ見つかるので重宝しています。
今回は米窪明美さんの「天皇陛下の私生活~1945年の昭和天皇」をご紹介します。
昭和20年の年明けは、空襲警報より始まった
天皇陛下は元旦に「四方拝」と呼ばれる儀式を行います。
これは、伊勢神宮、先帝(昭和天皇なら大正天皇)の山陵、四方の天神地祇の方角に拝礼し、年災を祓い、宝祚(皇位)の隆昌、五穀豊穣を祈る儀式です。
天皇がやらなきゃいけない儀式であり、代理(代参)は許されない重要行事。現在も一月一日になれば今上陛下がなさっている行事です。
しかし、昭和20年は戦争末期。この朝もB-29が来襲します。そのため、昭和天皇の防空壕(御文庫)前での四方拝を余儀なくされました。
元旦の御祝御膳も、乾燥野菜、缶詰、冷凍魚などがならぶ戦場食でした。
皇太后、弟宮たちとの隠された確執
皇太后陛下や、弟宮の秩父宮、高松宮両殿下とも、戦争中はなにかと意見の違いで確執もありました。
母親の皇太后陛下(貞明皇后)はすべて伝統に根差したものをそのまま残すという形で、お住まいの大宮御所では、和服、源氏名(通称)を維持していました。
一方で合理化を推進した昭和天皇は、洋服、本名を用い、女官も住み込みではなく自宅通勤に変えるなどの宮中改革を行っています。
また、弟宮との関係も微妙で、1歳差の秩父宮殿下は陸軍皇道派と親しく、天皇親政を唱えて立憲君主の立場を持つ兄の昭和天皇とぶつかり合うし
4歳下の高松宮は、海軍の勢力と連携して、東條英機内閣の倒閣運動を始めてしまうし
果ては末弟の三笠宮まで、杉山陸将の解任を主張し出す。
「皇族は無責任に主張して困る」と。
天皇の立場からすると非常に頭の痛い問題でした。
戦争の行く末を案じ、我が身を捨てて終戦へ動く
そんなわけで、皇族も一枚岩になりきれず、陸軍と海軍は有効な連携をとるに能わず、重臣たちは重臣たちで意見がまとまらず、戦争はいつ終わるのかは全く道筋がつかない。
終戦までに昭和天皇は8キロも体重が減り、精神的にも大変なやつれようであったといいます。
その間も、明治宮殿が空襲の際に飛んだ火の粉が原因で全焼、焼け跡を視察する昭和天皇は藤田尚徳侍従長に「関東大震災の時よりもひどい」と言葉を漏らしました。
そんな中、昭和天皇の終戦の意を体して、鈴木貫太郎の終戦内閣が天皇を守る様々なセーフティを外し、その決定で国の方針を決める「聖断」を敢行します。
今でもバカな人がこれを持って「天皇は戦争を回避できたはず」というのですが、そんなことは全然ない。
なぜなら、聖断をもって決定するというのは、今も昔も憲法違反の行為だからです。
そして、その禁を侵すことに関して「昭和天皇には何のメリットもない」のです。むしろ、自分の命を身代わりにして戦争行為を停止させたということ。
それをなしたのは、ひとえに「自分は天皇であり、皇祖皇宗から引き継いだ日本を守り、国民の命を一人でも多く守る」という天皇としての責務がそうさせたわけです。
命を捨てる覚悟?上皇陛下に手紙を残す
そして終戦後、今の上皇陛下に昭和天皇は手紙を書き送ります。
当時12歳だった、上皇陛下には9月8日に送った手紙で戦争について率直に思いをつづっています。カッコ内はブログ主が付け加えました。
(中略)
敗因について一言いはしてくれ
我が国人があまりに皇国を信じ過ぎて 英米をあなどつたことである
我が軍人は精神に重きをおきすぎて科学を忘れたことである
明治天皇の時には山縣(有朋) 大山(巖) 山本(権兵衛)等の如き陸海軍の名将があつた が
今度の時はあたかも第一次世界大戦の独国(ドイツ)の如く軍人がバツコして大局を考へず
進むを知つて退くことを知らなかつたからです。
戦争をつづければ三種神器を守ることも出来ず国民をも殺さなければならなくなつたので涙 をのんで国民の種をのこすべくつとめたのである
(p.163)Kindle 版
ここで気がついたことは2点でした
ひとつは、本来直接語って聞かせるべき明仁殿下に、手紙で書き送った意味です。
私は、これは「もし自分が命を落とすことがあったとしたら」という事を念頭に置いたことだったと思います。
この手紙から20日後に昭和天皇はGHQのマッカーサー元帥と会見します。だから、自分の命がどうなるのか、それはまだ分からない。次を託すとすれば、まだ皇太子にはなっていないが、長男である明仁親王であるから
歴史の立会人として、率直に伝えようとしたのではないかと。
もう一つは、科学を尊重した陛下ではあるが、その一方で天皇という位とともに受け継がれる三種の神器をものすごく重視していたことで、
それが矛盾せずに両立するのが、天皇という存在である、ということをすごく感じました。
この本は昭和20年の昭和天皇を追う事で、私生活に私がない、天皇という存在の重みを強く感じる一冊でした。
ご興味のある人は同著者の「明治宮殿のさんざめき」と共にご一読をお勧めします。
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