『いっきに学びなおす日本史』を通読した話

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この記事では、「通勤時間だけを使って『いっきに学びなおす日本史』を初めて通読した時の話を再編集して書きます。

当初予定していたのは一年でしたが、2ヶ月で何とか通読出来ました。

以前「一気に読めない日本史」とエントリーを書いたように、とにかく硬くて一気に読むには骨が折れます。

そこで、条件付けをして、この本を読むことにしました。

それは「電車に乗る時は必ず携帯し、1ページでも読む」を習慣付けることにしました。

それまでは、スマホを取り出したり、他の本も読んだりしていたのですが、この本全2冊を読了するまでは、電車の中ではこの本「だけ」を相手にしました。

逆にそれ以外の時は、ほとんど開くことはありません。

ストーリーを楽しむ事より、書かれていることを丁寧に読んで理解する読み方なので、おのずとスピードは落ちますが、片道で30分ちょっとの時間は、この本に集中しています。

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中学校の教科書との違い

ここでも以前書いたのですが、僕は2018年末に今の中学校で使われている歴史教科書を読み通しました。

中学校のレベルは一言でいえば、「大まかな流れを教えることに徹している」と思います。

知識量を絞り、「知識ゼロ」の人でも少しずつ全体像を把握させるための本です。

知識量を絞り…と書いていますが、脚注までしっかり読み通したら中々のボリュームになりました。

しかし、ちょっと物足りないのは「なぜそのように、人は動いたのか?」とか、「ここら辺、もうちょっと詳しく」って所があちこちにあったことです。

その点、「いっきに〜」は記述はかなり丁寧で情報量も多いですね。体感的には中学校レベルの7、8倍くらいでしょうか。

一気に覚えるのは諦めた!

そんな量ですから、初めからゴリゴリ暗記して読むなんてムリ!!

最初は意気込んで、「ここを覚えよう!」と透明な付箋を貼っていったのですが、ドンドン量が増えてしまいました。

こんなことしてたら、「理解するためなのか、付箋を貼るためなのか?」が分からなくなるんで、付箋を貼るペースを落としました。

そのかわり、今読んでいる部分を丁寧に読むという形に落ち着きました。コレが結果として良かったんだと思います。

もうね、大学入試なんか受けないわけですから、とにかく理解が第一!

忘れたっていいじゃない、人間だもの!

古代史は、国際関係で説き起こすから面白い

ノンビリ読んでいるつもりですが、中学校レベルで仕込みをしたのが効いているみたいでまあまあ順調です。

旧石器時代から室町幕府まで進みました。

この本のいいところは、「日本と他国との関係」がわかるように、他国の情勢もキチンと抑えてくれているところです。

学生時代には、とにかく「暗記!」だったことにこんな意味があったのか!といちいち腑に落ちる。

そうすると不思議なもので、その時その場にいた人は「何を考え、どんな解決策を立てたのか」というのが理詰めで分かる。

この面白さはたまりませんね!

例えば、古代中国王朝の史書「宋書」に残る「倭の五王」にしても、朝鮮半島に持っていた任那と同盟国百済の連合が、新羅、高句麗連合に対峙するために、当時の中国王朝だった宋の力を利用して、二国に圧力をかける目的だったと考えると、ものすごく納得です。

新しいシステムを取り入れる…という、現代でもよくある話が昔からずっと続いていたこと、そのシステムを取り入れてもそれは何十年単位で陳腐化して歪みを生じてしまうことなどは、現代の日本国憲法を考える上でも重要な示唆を与えてくれているなぁ…って思ったりします。

また、班田制から荘園に移り、天皇の権力が家臣であるはずの貴族に移っても、天皇から与えられる地位が彼らの権威を裏書きするところ、それがきしみを起こしながらも100年くらいは長く続くことや、

実際には物理的に力を持つ武士が台頭しても、ガラリとプレーヤーが入れ替わらずにそれぞれがお互いの地位や力を利用しながら徐々に社会が変わっていくのも人間の社会らしくって面白いと思います。

古代・中世は時間のレンジが比較的長い事で、かえって変化が見やすいんだなぁ、と改めて感じました。

それに近現代に比べると、古代や中世は今の日本とは全く違うシステムで動いているので試行錯誤がどのように転がっていくか、というのも面白いですね。

近現代史は左寄りの記述が気になる

ところで僕は大学時代に政治史を学んだ経験があります。

また、社会人になってからも「映像の世紀」を始めとしたドキュメンタリー番組を好んで視聴し、半藤一利さんやこの本を復刊した佐藤優さん、その他様々な本を通して戦後史はかなり抑えているつもりです。

しかし、ちょっとこの本の記述に不満を感じる部分も出てきました。それは戦中〜戦後における「左派びいき」なのです。

例えば、南京大虐殺。

これじゃ、日本軍がやりたい放題やってるって印象しかないんだが、ココをそのままにするというのは、現段階での検証を交えて欲しかったんだけどなぁ…。

本多勝一氏の「中国の旅」ほどじゃないけどそれでも「犠牲者は3万、10余万説など諸説ある」となってる。

…まぁ当時25万人しか南京市内にいないのに30万人説を唱える中国共産党の主張に比べればはるかに『実証的』かも知れませんが。

あと、これは「大学への日本史」時代からの影響だと思うのですが…共産党への手加減、半端なさすぎ!

佐藤優さんはセンターレフト、とこの本を紹介していますが、ことこの問題には、真偽定かではない部分もチラホラ出てきます。

…まぁ、グチはこれくらいにして、もっと建設的な話をしますね。

戦前の政党政治崩壊は、中々の既視感!

この本の記述を違和感なく読めるのは、まさに共産党が本格的に影響力を持ち始める「戦後史」および、今でもちょこちょこ政治問題化してくるトピック、例えば朝鮮半島や台湾への「植民地政策」以外のところです。

例えば、戦前の政党政治(加藤高明内閣〜犬養毅内閣)が8年で崩壊するあたりは中々のリアリティがあります。

どちらも今の野党のようなどうでもいいところに噛みつき、ホントに大事な政党政治の要諦になる場所を守りきれず

大局観皆無の揚げ足取りに終始した結果…

「コイツら結局言ってることマトモじゃねーよ!信用ならない!」と国民信頼を失うくだりは、旧民主党および自称反権力マスコミ(代表例はもちろんあの人

は拳拳服膺して丸暗記してもいいくらいの描写です。「こう見られてるぞ!」という意味でね…。

戦後史がつまらない!

それにしても、古代〜太平洋戦争あたりまでは説明も明快で実に面白く読めたのに、戦後史はほんと、事実の羅列で読みごたえがない!

これが感想でした…なんで最後がこんなに締まらないのか…

答えというか、ヒントは付録の「日本史ガイダンス」にあるように思います。

これは、大学の教養科目に相当する内容で、教科書のレベルを高校で卒業し、資料を精査して歴史を分析する方法や考え方をザックリ説明している箇所です。

歴史の資料に対する心構えが説かれているのですが、そこでまず第一級の資料は当時の手紙や外交資料などの公文書なんです(ちなみに後世にまとめられた史書は、二次資料という格になります)

そこから考えると、戦後史が薄っぺらいのは…

①当時はまだ一次資料が揃っていなかった

この本の前身「大学への日本史」は1973年初版です。

1973年当時の京都。私にとってなんとなく懐かしい雰囲気です。こんな時代に「大学への日本史」は発刊されたんですよ。

当時は機密扱いになっている資料がまだあるので、著者もあまり予断を交えるのはまずいと考えたのかもしれません。

②共産主義国の実態が明らかになっていなかった

当時は、ソ連や社会主義国の実態が明らかになっていないところも多く、いわば「謎の帝国」だった部分がありました。

そういえばこの本では、中国の文化大革命についても、当時の中国の見解そのままで、毛沢東が権力奪回を目指した奪権闘争である一面を書いていません。

今回の出版で直すこともできたはずなのに、ここをあえてノータッチでいったのは不思議といえば不思議です。

③今よりもあからさまな「左寄り」の社会情勢

②と関係するのですが、当時は今以上に「左寄り」に支持が集まっていた時代でした。

国鉄労組の自分勝手な「順法闘争」に学生運動でケンカ慣れしたサラリーマンがキレて暴動状態になった上尾事件があったのも1973年です。

今よりもずっと社会が殺気立ってて、不安定な時代でした。

しかし「あさま山荘事件」でも、仲間をリンチした事実が明るみに出るまで、犯人の連合赤軍も結構世間のシンパシーを集めていました。

【関連記事】

コロナ禍の今でも使えるノウハウ満載!『連合赤軍あさま山荘事件』を読む

まして、共産主義国が20年経たないうちに相次いで崩壊することも分からなかったでしょう(日本でソ連崩壊を予言できたのは、小室直樹さんほか、ごく少数派でした)

東西冷戦の象徴、ベルリンの壁は1989年に崩壊しました。しかし、その数年前私は小学校でベルリンの壁が崩壊することは無いだろうと言われたことをはっきりと覚えています。

そういった時代の流れを反映しているのでしょうか、岸信介内閣で起こった新安保の件についても、政府が弾圧した、という記述になっていましたし、どことなく、政府のやることには裏がある的な意図を感じます。

全体的には、ホントに面白い

とまぁ、最後の難癖を付けまくってしまいましたが、この本は本当に面白いです。

昨年末の中学校の歴史教科書では分からなかった、背景や情勢、因果関係についても「これくらい知りたい」という量のちょっと上くらいの情報まで精査して書かれていたので、読んでて「なるほど!」と思わせるところが多かったです。

この本を読んで得たもの

1人の著者が通史を書くと、これまで日本が何を問題とし、それにどうやって対処したか?そしてその結果はどうなったのか…その関係が一定のリズムで書かれているので理解がしやすいです。

また、一般人が「教養として歴史で知っておかなければならないこと」の大体のレベルが分かりました。

この本の内容を一通り理解できれば、これから読む歴史の本から、さらに深い理解を導けるのではないかとも、手ごたえを感じています。

上記のように一部「?」と思うところもありますが、教養編となっていた上巻はほぼ全部、実用編の下巻にしてもかなりの部分が役に立つなぁと思いました。

日本史のギモンがわく時にはまた紐解きたい一冊です。

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