高校時代に古本屋に行った時、かなりくたびれた文庫本を買った。
100円を払って購入し、帰りの電車の中で夢中になって読みふけった思い出の一冊です。
ボロボロながら長年手放せず、一人暮らしを始めた頃に実家に残しておいたのだが、いつの間にか処分されてしまっていました。
じゃ、と思ってAmazonで探したら、
KINDLE版で発売されていたので「すぐ読みたい!」と即購入しました。
『サイゴンから来た妻と娘』ってどんな本か?
著者の近藤紘一さんはベトナム戦争取材の現地記者として、
南ベトナム(当時)で取材を重ねてきました。
そんな折に縁あって結ばれたのがベトナム人妻のナウさん。
前妻と死別していた近藤さんは、
駐在先のサイゴンでナウさんと連れ子のミーユンさんという家族を持つことになります。
しかし、ベトナム戦争は最終局面を迎え、近藤さんのいた南ベトナムも崩壊。
妻子を先に日本に脱出させ、近藤さん自身も最後の便で南ベトナムを脱出します。
そんなわけで、南ベトナムしか知らなかったナウさんと東京での生活を開始すると、
日本の社会の中で、ナウさんが様々なカルチャー・ショックを受ける様、
それをベトナム流の機転や大らかさで乗り切る様子。
思春期を迎える「娘」ミーユンさんとの暮らしなどが面白おかしく書かれている本…
初めて読んだ「高校生の私」なら、この本をこう紹介したと思います。
42歳で読み直して分かった、この本の凄さ
高校生の時は、とにかく面白おかしく興味津々に読める部分が目に付いた記憶があるのですが
何しろ最近、昔読んだ本の印象がガラリと変わる経験を繰り返しているので、
この本でもやっぱりそういう体験があるだろうな、と読む前から思っていました。
読み直して思ったのは、近藤紘一さんってすごく価値観を相対的に見る人だなと。
例えば、奥さんが買ってきたウサギを育てて、丸焼きにして食べる話でも、
日本ならペットなのですが、日本人の視点というより
なんか第三者から顛末を眺めるような、そういう書き方をしています。
ベトナム人の奥様にとって、ウサギは同じ命だからウサギが好んで食べるアザミの葉っぱを近藤さんが刈りに行き、冷蔵庫にストックするほど熱心に面倒を見る。
同時に…人間の言葉が分かるかどうかは関係なく、絨毯の端をかじったりすると、折檻して叱りつける。
娘のしつけと一緒。ペットとしてかわいがるというより、同居人を面倒見てるのと同じ
だけど、いざ食べるときには、美味しく頂戴する。
娘は日本の気質に馴染んでいるので、ある日突然ペットが肉塊に変わっている時に
「かわいそうじゃないか」と泣くんだけど
奥さんは
「お前、バカだよ。ウサギはもともと人間に食べられるために生まれてきたんだからね。生きてる間は親切にしなければいけないけれど、いつかはこうしなきゃならないんだよ。幾つになったらそんなことが分かるんだい」
と叱り飛ばす。
そして、3人で食べきれないほどの肉付きの良さのウサギ料理を家族で堪能する、といった具合。
近藤さんがウサギのしっぽを引っ張ったり、耳をつかんで持ち上げたりすると、本気で腹を立てるのに、奥さんは「お前、そろそろ美味しそうになってきたねえ」などと話しかけている様を
お釈迦さまを敬い、輪廻転生を自明の理として受けとめる以上、彼女はこんごも動物を自らと等価値のものとして親身に遇し、かつ、必要とあれば彼らを平然と殺戮しつづけるだろう。これは感情や感覚の問題ではなさそうだ。彼女の国と風土と文化に裏打ちされた、しかるべき行為であり、父祖伝来の生活の規範なのだろう。日本人とベトナム人の間の、よろずものごとへの「構え」の違い、さまざまの価値観の違いは、つきつめれば、このあたりに帰納されてくるのかもしれない。
と締めくくる。
奥さんも日本の文化に驚き、旦那も奥さんのこういった日常に驚くけれど、
奥さんのベトナム流のやり方を決して否定しない。
奥様や娘さんと一緒にウサギの料理に舌鼓を打ちながら
妻や娘を観察し「どう違うのか」をより深くクールに洞察していく。
私も高校生の時ならば「飼ってたウサギを食べちゃうんだ、スゲー!」で終わったんだけど
42歳の今は「とにもかくにも日本人である近藤さんが、奥さんのこのウサギに対する行動を冷静に見て、さらに書き、
何となくユーモアも効かせつつ、近藤さんと奥さんの違い、さらに言っちゃうと日本人のベトナム人の根本的なモノのとらえ方の違いを書けているんだな~」と
考えちゃったりします。
こういった面白いエピソードの後に、近藤さんの冷静な記述が続く形で、
一冊が貫かれており、通しで読むと、ベトナム人の行動原理みたいなものがなんとなく、感じられるようになっています。
ベトナムを知る日本人という視点からも、今読んだら面白い一冊!
日本でも最近、ベトナム人と接する機会って増えてきていますよね。
なんですか、牛を盗んで自宅で解体して、なんて話もありましたよね。
生粋の日本人だと、どうしても「何考えてるんだ?」などと思ってしまうことでも、彼らには彼らで考えていることがあるのかもしれない。
まぁ、法律違反はダメですけどね。
ただ、まったく意味不明の存在にするよりは、ベトナムの戦火の中で庶民の暮らしに紛れ込み、
帰国後も家族内マイノリティでベトナムのアイデンティティと向き合って書かれた近藤さんの本って
ベトナムが今までになく近くなってきている、今の日本には結構参考になることが多いとおもうのです。
今読んだら面白いと思うので、ご興味のある方はぜひ一度ご一読ください。
国際結婚の話だと、中華の鉄人陳建一のお母さん、洋子さんの話もおススメです。
日本人と四川料理をつなぎ寄せた肝っ玉母さん~『麻婆豆腐の女房』 | 読んで学んで、考えて〜フェイクの大海を泳ぎきるために (idliketostudy.me)
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